個人情報流出の被害者への慰謝料の相場はいくらなのか?を調べてみた
2016/05/12
財布の中を整理していたら、500円の図書カードが出てきて。
「なんでこんなものが入ってるんだっけ?」と思い返すと、あれですよあれ。記憶に新しいベネッセの個人情報流出事件。
流出した約2,895万件(!!!)に我が家も含まれており、お詫びにもらった図書カードです。すっかり忘れていました。
何の情報が流出したのか当時も調べたはずですが、改めて調べてみると
<漏えいした情報項目>
- サービス登録者のかたのお名前、性別、生年月日
- 同時に登録いただいていた保護者様またはお子様のお名前、性別、生年月日、続柄
- 郵便番号
- 住所
- 電話番号
- FAX番号(ご登録者様のみ)
- 出産予定日(一部のサービスご利用者様のみ)
- メールアドレス(一部のサービスご利用者様のみ)
なお、クレジットカード情報が名簿業者へ売却された事実は、一切確認されておりません。
引用 ベネッセお客様本部「事故の概要」
かなりの個人情報をだだ漏れさせてしまいました。
ふと考える。はて、こんなに盛りだくさんの情報が流出したお詫びに「500円」は果たして妥当な金額なのだろうか?
ベネッセ被害者の反応をネットで検索してみると、皆さんさまざま。「良心的」という意見もあれば、「これっぽっちでふざけんな」と怒り心頭なご意見も。
ベネッセはお詫びに総額200億円を使ったそうですが、この500円という金額の根拠はなんなのだろうか?
気になったので過去の個人情報流出事件の「お詫び相場」を勝手に調査。そこから個人情報の価格を導いてみるという、あまり品の良くないエントリーを今回は書いてみます。
Photo: Areyouonmylist? by Eddy Van 3000
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個人情報流出事件のお詫び相場はいくらなのか?
いやまず現実の認識から変えないといけないのかもしれません。
僕らが目にするような全国ニュースに取り上げられる個人情報漏洩事件は、大手企業などごく一部の話。
ネットで検索してみると、実は中小企業や小さな町役場にいたるまで個人情報流出は日常茶飯事の出来事。やれパソコンを紛失しただのなんだの、個人情報が漏れたけどなぜか大丈夫と断言しているアホ対応も含めて謝罪のプレスリリースが検索結果に山のように出てくる事実にまず仰天した。興味がある人は、検索してみてください。
で、最近でもニュースになるようなところで
- 2015年1月:日本航空がマイレージ会員4131人分の情報漏洩でクオカード500円
- 2015年5月:サンリオが株主6249人分の情報漏洩でクオカード1,000円
- 2015年5月:ロート製薬が株主357人分の情報漏洩でクオカード500円
をお詫びの品として配っています。会社のファンも多いであろう株主の情報を漏洩するとはなんともマヌケな。そして初めて知ったんだけど、クオカードの存在目的は「お詫びの品」なんですね。
なんて冗談はさておき、さらに大々的な人数の個人情報流出事件をさかのぼってみると
- 2003年6月:ローソンが会員56万人分の情報漏洩で商品券500円
- 2003年11月:ファミリーマートが会員18万人分の情報漏洩で商品券1,000円
このあたりから情報漏洩のお詫びの品は「500円~1,000円」という相場がなんとなく形成され、自分も被害者でもらった記憶がありますけど
- 2004年1月:ソフトバンクがYahoo!BB加入者452万人分の情報漏洩で金券500円
で、ひとり500円だ!と謝罪相場が決定づけられたのが一般的な認識のもよう。その後もYahoo!BBの漏洩452万人をはるかに超える
- 2007年3月:大日本印刷が業務委託を受けたカード会員863万人分の情報漏洩で金券500円
というド派手なお漏らしがあり、これも慰謝料500円。
他にもここ10年ほどの間の個人情報情報漏洩事件を調べてみると、被害者へのお詫びは軒並み500円~1000円相当の金券が配られています。普通が500円。1,000円はいいほうって感覚。
自社サービスで使えるポイントなどをお詫びの品として配った方がコストはかからないのでしょうが、「は?個人情報漏らすようなおたくのサービスなんてもう二度と使わないよ」と怒る被害者感情に油を注ぐのが明らかなため、汎用性の高い金券が登場しているのだと思われます。
「500円の根拠はなんだ?」としつこく調べても何一つ根拠が出てこない。わかるのは「企業側が一方的に決めている金額」ということだけ。
「とりあえず過去の同様な事例にならって一律に支払っておく」ひとつの日本企業の習わしに見えます。
なので、ベネッセも横並びで500円の金券支払いとなったと推察します。
参考 ウィキペディア「個人情報漏洩」「Yahoo! BB顧客情報漏洩事件」/SecurtyNEXT「サンリオ、個人情報漏洩で優待券やクオカードを配布」/日本経済新聞「ロート製薬、個人情報漏洩で株主におわび」/ITpro「JALがマイレージ会員4131人分の情報漏洩を確定」/CNET「ローソン、顧客情報流出事件の調査結果を発表」/大日本印刷「個人情報の流出に関するお詫びとお知らせ」
裁判所は個人情報をいくらと見積もるのか?
500円や1,000円ごときに納得できないユーザーもいるわけで。そうなると裁判です。
訴訟にかかる時間や弁護士費用を考えると割に合わないので訴訟までは踏み切る人は少ないのでしょうが、個人情報漏洩に関する最高裁の判例が残っています。
1998年、京都府宇治市がシステムを開発委託した民間業者が、名前や住所、性別、生年月日、転入日や世帯の詳細といった個人情報22万件を流出させた事件。
被害者の住民が宇治市を相手取った裁判にて、2002年7月に最高裁は市の管理責任を問い、ひとりあたり「慰謝料10,000円+弁護士費用5,000円」の計15,000円を支払うように命じています。
これは個人情報(名前や住所の基本情報)の値段がひとり「10,000円」だと最高裁が司法の判断として示したものであり、その後の個人情報漏洩事件で企業を被害者が訴えた場合の基準額となっているようです。
また、2002年5月に起きたエステティックTBCから5万人分の個人情報が流出した事件。
流出データが悪用され迷惑メールが送られてくるといった2次被害を受けた被害者に対し、東京地裁は2007年2月にひとりあたり「慰謝料35,000円」の支払いをTBCに命じてます。
この事件、スリーサイズなどデリケートな情報もごっそり流出してしまったので、被害者は心理的ダメージも大きく踏んだり蹴ったり。
その他の判例も調べましたが、TBC事件の35,000円が個人情報漏洩に対する慰謝料での最高額のようです。
この金額、高く感じますでしょうか。安く感じますでしょうか。
参考 宇治市住民基本台帳データ大量漏洩事件控訴審判決/ITpro「エステティックTBCの顧客情報漏洩」/情報処理学会研究報告「企業・組織における個人情報漏洩事故の補償について」
まとめ
むやみやたらにいろいろなところへ登録したりと個人情報をばら撒かないといった自己防衛策を取ったところで、ひょんなことから個人情報漏洩に巻き込まれてしまうもの。
しかもベネッセのように、幼い我が子まで巻き込んでしまったことは、親として痛恨の極みです。
それぞれ自分の情報は自分で守れるものは守るにせよ、もし個人情報漏洩事件に巻き込まれた時の慰謝料は「500円~1,000円」が相場。しかもこれは個人情報の価値というよりは、過去の事例に企業が右へならえで勝手に導き出した金額であるということはちょっと頭の片隅に置いておいたほうがいいかもしれません。
個人情報漏洩のニュースを聞いたら、「ああ、また500円のクオカードの出番だね」と。
でもって、500円に納得いかずに企業を相手取って裁判を起こしたところでもらえる慰謝料はせいぜい10,000円。仮に流出した個人情報による2次被害があっても慰謝料は35,000円が上限。
プライバシーが流出して被害を受けても、お金の面ではたいしてフォローがないということがよくわかりました。
これから個人情報の流出事件は定期的に起こり続けるでしょうし、またクオカードをもらう立場になるかもしれません。僕も思い起こせばYahoo!BB、そして最近ではベネッセと定期的に被害にあっていますが、これらは完全にもらい事故。不可避なものとしてその時その時で対応していくしかないのかなと思っています。
ちなみにベネッセの事件も現在、訴訟を起こしているユーザーがいます。個人情報10,000円の最高裁判決はもう10年以上前の話。最新の個人情報の値段はいくらなのか?司法の判断に要注目ですね。
そして、今後必ずあるであろう「マイナンバー」の情報漏洩も、不謹慎ながらそのお値段には非常に興味があります。
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